学説の押さえ方
迷わないためにまずは,論点の問題の所在を押さえること。「要するになぜ問題となるのか」を把握することなしに,学説を追いかけても,すぐに忘れてしまいます。
条文に明文がないので問題となるのか,条文相互が矛盾しているように見えるから問題になるのか,条文の文言が不明確だから問題になる等々,論点により問題の所在は異なります。論点に応じてなぜ問題となるのか,を押さえるのが大大前提です。
次に,論点に対して,結論的に,肯定説(積極説)なのか否定説(消極説)なのか,まずは二者択一思考で結論を想定した上で,その結論の理由付けを自ら考えてください。
理由付けは,2面的に考えるくせをつけましょう。
すなわち,例えば
積極的理由と消極的理由(反対説への批判)
実質的理由(趣旨からの理由付け)と形式的理由(文言解釈上の理由付け)
結論の妥当性と法的安定性
価値判断と法律構成
など,こういう観点で2面的に考えるくせをつけると,覚えやすく,答案にしたときに説得力が出ます。
肯定説と否定説の間には折衷説があり,実務はほとんどが折衷説。
ゆえに複雑なのですが,肯定説を修正した折衷説なのか,否定説を修正した折衷説なのか,という視点も重要です。
とりあえず修正前の両極端な説を前提にし,それを前提とせずにいきなり折衷説を覚えるのはやめたほうが,簡明です。
例えば,憲法の私人間効という論点では,間接適用説という折衷説が通説・判例。刑法の因果関係という論点では,折衷的相当因果関係説が通説。こういった折衷説は,どちらの側の説の修正でしょうか。
結論レベルでは,ある論点ではその考え方が支配的な場合があり,もっぱら理論構成(法的構成)レベルが論点というものもあります。
この,結論(価値判断)レベルでの争いなのか,理論構成(法的構成)レベルでの争いなのかを区別する視点も大切です。
こういう類型の論点の場合,結論が同じなら,理論構成(法的構成)レベルで色々言われていても所詮理屈付けの問題にすぎず,実務のレベルから見ると,些末な争いと言って過言ではない場合が多い傾向があるように思います。
あとは,判例・通説・有力説などの(区別)色分けです。
それが判例なのか,通説はどれか,どれが判例・通説に反対する有力説なのか,という点を,講義や基本書等で区別(色分け)して押さえます。
基本的には,判例をベースに,判例を理論的・体系的に基礎付ける通説を選択することをお勧めします。なぜなら,そのほうが基本的に結論が妥当だし,覚えやすいし,答案にも書きやすいから。
ただ,この論点は「このように解すべきだ」と感じる論点もあります。その場合は,答案に書くときに,判例・通説をしっかりと提示し,批判し,自説を論じる必要があります。そうやって論じれば加点が付く可能性がある一方,そう論じないと減点される可能性があるので,ご注意を。
蛇足ですが,私は,刑法では大谷説で,特に,違法性阻却事由の錯誤の論点で,故意説(判例ないし団藤・大塚説=通説)を批判して責任説を論ずるのを「鉄板」にして得点を稼いでいたものでした。が,今となればその論証は書けません。しかし,その論点の団藤・大塚説は書けます。それは,問題の所在からシンプルに理由付けが位置づけられるからで,難しくないからです。
お勧めするなら,判例・通説ベースのほうが,実務的にも役に立ち,覚えやすく,答案も書きやすいので,お勧めです。