復帰的物権変動
車の所有権は,原則として契約時に,乙に移転します。
ところが,元々乙さんが甲さんを騙したため,甲さんは乙さんに売ったという前提だったとします。
これは,詐欺(民法96条)で,甲さんは,売買契約を取消しすることができます。
取消権は,意思表示により効果が生じ,その効果は,遡及的無効です(民法121条)。
遡及的無効とは,はじめに遡って無効になる,すなわち,最初から実は無効であった,という意味です。
取消権行使により,甲さんが乙さんに車を売ったことは遡って無効になることになります。
すなわち,最初からなかったことになるはずなのですが,観念的には,一度乙さんに所有権が移転したものが甲に戻るようにみえると考えることもできます。
それを「復帰的物権変動」といいます。
判例法理にも出てくるのですが,論理的には取消の効果である「遡及的無効」と完全に矛盾します。
その矛盾を頭の中で消化できない(割り切ることができない)と,法律の勉強は進みません。
そういう論点がほかにもたくさんあるので,法律を難しくしていると思います。